2015年9月1日火曜日

1166 本屋で探検42〜「統ばる島」(池上永一:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第42回目。
今回は、池上永一・著「統ばる島」です。

この文庫本は解説がありません。情報といえばカバーの帯の文章と、扉の作者略歴のみです。
ならば、それを一切読まず(ぱっと目にしただけでしたのでしっかり意識の外に出しました)、物語からの「情報」のみで読み進めていこうと思いました。要するに先入観なく読み、感じたことを書き出していくということですね。

物語の舞台は八重山諸島。竹富島、波照間島、小浜島、新城島、西表島、黒島、与那国島、石垣島。そして文庫書き下ろしの鳩間島の9話が収録されています。

おおよそ現代が舞台ですが、第1話の「竹富島」では神様が怒りで雷を落として岩を割ったり、祭りの踊りに満足してツカサと呼ばれる神女(巫女さんみたいなもの?)を介してご託宣を伝えたり、第5話の「西表島」では山奥に女だけの原始部族がいるなど、独特な文化、信仰のある土地なだけに幻想と現実が入り混じったような不思議な話が展開されます。

ちなみに、表紙のイラストの目力のある少女は西表島の原始部族をイメージしたものと思われます。遠田志帆さんという方のイラストです。こちらの身体を通してさらに後ろまで見られているような眼力ですね。

さて、当方のような北国育ちだとこれらの島の風土・風習などピンと来ないものもあるのですが、しかもどこまでが現実でどこまでが伝説、あるいは作者の創造なのか、その境界が曖昧なところがまた南の島の物語をさらに幻想的にしています。
なんとも摩訶不思議な世界という言葉しか浮かばないのですが、物語を楽しめたのならばそれが現実なのか伝説なのかは問題ではなくなり、読後はそこに旅した気分に浸れました。
ただし、西表島のエピソードだけは遠慮したいですね。理由はネタバレになりますので本書てどうぞ。ちょっと怖いです。

さて、タイトルの「統ばる島」ですが、「統ばる」には、集まって一つになるという意味があり、物語の島が一つになって八重山諸島になっているという地理的な意味もありますが、第8話「石垣島」の話を読むと、ああ、そういう意味かぁと納得がいきます。
さらに、新城島以外は時系列が同じ物語であり(つまり現代のお話)、登場人物たちが自分の意思で行ったと思うことも、納得がいかずやらされていることも全て島の神の意思によるものだとわかります。また、いずれの物語も女が中心にいて輝いていると感じました。

それぞれの島の神が語らうシーンもツカサにはまさに現実であり、読んでいる当方もそれがちっとも不自然に感じないという不思議な語り口。シリアスあり、ユーモアあり、しきたりやしがらみがあり、家族愛ありと、一枚の織物のように9つの物語が織りなす各シーンに作者の技量のすごさがうかがえました。

余談ですが、個人的には女海賊の話(第7話「与那国島」)がお気に入りです。
八重山諸島に行って神々のいる空気を感じてみたくなりました。

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