「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第4回目。
今回手にしたのは伊藤計劃・著「ハーモニー(新版)」です。SF小説です。
SFを読むのはもう何年ぶりか思い出せないくらい久々でした。
この作者については以前から評判を聞いて気になっていました。また、2009年に34歳で夭逝したということで作品数も少ないのです。長編はゲームのノベライズも含めて3作品だとか。そのなかの一つが「ハーモニー」です。
この文庫の初版は2010年で(発表自体は2008年)、書店で面陳されていたのは以前の文庫版に過去のインタビューが収録された新版だからでしょう。こちらは2014年8月発行です。
物語は核戦争の後、体内にWatchMeという監視装置を入れ徹底的に健康管理をされた社会。だれも病気にならず、死ぬのはほとんどが老衰のみ、自殺もない(はずの)世界。プロフィールも何もかもが公にされ、「プライバシー」というものが無く、「プライバシー」という言葉が卑猥言語にすらなっている世界。
そこに全世界で同時間に6千人もの人が唐突に自殺するという事件が起き、監察官の女性も目の前で学生時代の女友達が自殺する場面に遭遇します。その謎を追っていくうちに、学生時代に自殺したはずの別の女友達が関与している可能性が浮かび上がり・・・。
作者自身が病気の治療のため入院しながら書いたということもあるからでしょうか、人間があらゆる病の悩みから解放され、100歳近くまで生きる世界がそこにありました。
読んでいて果たしてそれが幸せな世界なんだろうか?という疑問が浮かびました。それ以上に、この物語の結末から想像される人類が向かうさらに未来は幸せなのか、人間が人間でいられる世界なのか、などと考えさせられました。
これ以上はネタバレになりますので避けますが、冒頭や所々にHTMLのタグのようなものが付いた記述があってなんとなく取っつきにくい感じがしますが(その記述方法の理由については最後で判明します)、 SFということにこだわらずミステリーとしても楽しめる作品だと思いました。
若い頃は良くSFを読んだけど最近はさっぱりだから取っつきにくいなぁと思っている方がいましたら、ぜひこの作品を読んでふたたびSFに浸ってください。その断絶を埋めるに値する作品だと思います。
文庫の帯に2015年に劇場アニメ化とありますので、どうビジュアル化されるかというのも楽しみです。
それにしても、作者の執筆生活が続いていたらどんな作品を書いたかと思うと、ありきたりな言葉ですが若くして亡くなったのが惜しい作家ですね。
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