今回は、桜木紫乃・著「凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂」です。
推理小説であります。
初出は2009年の単行本ですが、2012年に完全改稿して文庫化したと、本書の最後にあります。
直木賞作家と書いてある帯もさることながら、地元・北海道が舞台の推理小説、しかも道警の女刑事が主人公ということで手に取りました。
カバーをみると、作者は北海道生まれ(釧路だそうです)ということで土地勘があるので、同じ道産子が読んでも違和感がないだろうと思った次第です。
作中には終戦直前の樺太も出てきますが、メインの時代背景は現代です。釧路、小樽、札幌、留萌、室蘭といった実在の土地が舞台となっていますので、地理的要素はしっかり書かないとフィクションといえども興味がそがれてしまうことがありますが、そこは安心して読めました。
また、北海道の地理に詳しくなくても文庫本の一番最初のページには釧路支庁(現・釧路総合振興局)管内と終戦直前の樺太の地図が掲載されていますので、これを参照しながら読むことができます。
また、北海道の地理に詳しくなくても文庫本の一番最初のページには釧路支庁(現・釧路総合振興局)管内と終戦直前の樺太の地図が掲載されていますので、これを参照しながら読むことができます。
さて、物語は1992年夏、10歳の男の子が釧路で行方不明になった話から始まります。釧路湿原の「谷地眼(やちまなこ)」という湿地にすぽっと穴の開いた水脈というのか、その中に落ちたのだろうということで捜索は打ち切られます。
その17年後、その男の子の姉が刑事になって北海道警釧路方面本部に異動し、釧路湿原の東端で発見された青い目の日本人の殺人事件を担当します。相棒のベテラン刑事は、かつて弟の事件を担当した刑事。殺害された若い男と樺太出身の女たちのつながり、女刑事の弟の行方不明事件、時代と場所が交差して進むミステリーは、履歴の分からない女にたどり着くのですが・・・。
やはり、地元ネタということでリアリティを感じつつ読めました。釧路から札幌、小樽、室蘭、留萌と長距離を女刑事と先輩刑事が捜査のために移動するので、旅ミステリーっぽい感じもあります。
ただ、おもしろく最後まで読めるのですが、ミステリーとしてはいまひとつ消化不良な点も。(ネタバレになるので、下の方にメモ的に書き留めてあります。)
文庫カバーの後ろにある解説によると、この作家唯一の長編ミステリーだそうです。(他に短編ミステリーがあるかは分かりませんでした。)
しかし、ミステリー仕立てではあるけれど、父親不在の家族の物語にも読めました。
終戦直後の樺太から逃れてきた女が一人で女児を産む。女刑事の父母は弟の不在をきっかけに離婚。殺害された若い男の家族も青い目の子供が生まれたことで父親が母親の浮気を疑いやがて離婚。女刑事の弟の友人は母子家庭。
これらの糸も絡まって物語が進んで行きます。
副題に「北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂」とあるのでシリーズものなのかなぁと期待して調べたのですが見当たりませんでした。このベテラン刑事と若い女刑事のコンビの続編を読みたくなるような読後感でした。
(ネタバレのメモ的消化不良部分)
- 若い男を殺した犯人の具体的な殺害動機はなんだったのか?
- 本物の十河キクはどうなったのか?(どうやって殺され、どこに遺棄されたのか?)
- 現在、十河キクと名乗る女は果たして何者なのか?樺太がかかわるらしいが、全く触れていないのも気になる。
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