今回は、田中啓文・著「ウィンディ・ガール」です。
ここのところ物の怪・幽霊ものが続いたので普通の小説をと、タイトルと表紙のサックスを吹く女子高生が清々しかったので選んでみました。舞台は高校の吹奏楽部。青春小説でしょうか?
副題の・・・え?「サキソフォンに棲む狐」?
管狐(クダギツネ)という物の怪が登場する小説でした。
ここまでくると我が霊感体質もたいしたもんだと言わざるを得ないかと。何気に手に取った本が連続してこうですから。
物語は、典子という女子高生がサックスを担当する吹奏楽部での日常とそこで起こる事件をクダギツネのチコと謎を解くという筋立てに、ジャズの蘊蓄や、事故で亡くなった典子の父親の謎、異常なまでに過干渉な母親などがからんできます。
クダギツネは出てきますが、怪異が起こってそれを解決するという謎解きものではなく、普通の人間が起こす事件の謎解きにクダギツネが知恵を貸すという展開でした。
くだんのクダギツネは、典子が質屋で購入したサックスに棲んでいるのですが(元々は父親に憑いていたらしい)、このサックスはブランド名もなくどうやら手作り品らしいということ、そして小説の最後で母親が「なぜチコのことを知っているの?」と典子に問い詰めるシーンなど、父親の死因も相まって謎だらけで2作目の「ストーミー・ガール」に続きます。
今回選んだ文庫は読み切りではなかったんですね。でも、すでに2作目は出ていますので、気になって発売を待つこともなさそうです。
典子がジャズに興味を持つにつれ、そちらの話もたくさん出てきます。そのジャンルを知らない人には「?」なアーティストや曲目、音楽用語が出てきますが、それを知らなくてもストーリーの流れから押し出されることなく読めました。ここのところは、作者がジャズ好きなことと入門書も出していることからも、知らない人も困らないように丁寧に書いたのだなぁということがわかりました。
ただ気になるのは典子と母親の関係でした。母親は父親が死んでから典子に厳しく当たるようになったのか、それとも昔からモラ母(毒親)だったのかわかりませんが、部活で夜遅く帰ってくる娘を心配する気持ちはわかりますが、自分の思い通りに動かそうと平手打ちを加えたりする場面はちょっと不快でした。しまいには往復ビンタ複数回なうえ、典子のサックスを放り出して破壊します。
ここまでくると母娘の関係はもっとドロドロしていると思うのですが、そこは男性作家であるゆえんなのか、またはこの小説の本筋といささか離れてしまうので追求していないのかもしれません。
典子は壊されたサックスに向かってチコを呼びますが返事はありません。それを聞いた母親から「なぜチコを知っているの?」というセリフが飛び出すのですが、母親こそなぜチコを知っているのでしょうか?果たして真相は?
正直に言いますと、母親の典子に対するひどい仕打ちが後味悪く、続編を読もうかどうしようか迷いました。しかし、謎を放置しておくのも気になって仕方ありませんので、続編を買ってこようと思います。
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