「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第10回目。
今回は、川上未映子・著「すべて真夜中の恋人たち」です。
ここのところファンタジーやミステリーが続いていましたが、今回は珍しく一般小説です。
物語は主人公・冬子の一人称で進みます。35歳、独身、フリーの校閲者。
高校時代もぽつんと一人でいるようないわゆる人付き合いが苦手な性格。なんとなく大学に進んで、何となく小さな出版社に入り、人に頼まれて校閲のバイトを掛け持ちし、これもまた人に誘われてフリーになったという、流されて生きているような女性。
夢もどこにあるのか、人生の目標もあるのかないのか、自分で積極的に選択しながら生きてきたような形跡もなく、なんだか身につまされるような主人公でした。
そんな冬子が気まぐれを起こし、カルチャーセンターに受講の申し込みに行きます。その心境の変化も、人と話す事がスムーズに行くようにと始めたらしい酒の力を借りての所行。カルチャーセンターに行くにも、水筒に日本酒を詰めて飲みながらという始末。そのせいで粗相をするのですが、それがきっかけで知り合った中年男性と交流することに。
つきあうというのでもなく、ただ数ヶ月に幾度か喫茶店で会って話をするだけ。それでも冬子はお酒を飲んで行かないと落ち着かない。
居心地がいいような悪いような状態が続く中、今まで恋愛経験のない冬子でも恋だと分かる感情を抱くようになります。
しかし、彼の誕生日に普段の自分とはかけ離れた行動を取ってしまい、何も起こらないまま片思いが終わります。
そんな30代女性の日常のような、初恋のようなものが大きな事件も男女の関係もなく淡々と綴られていきますが、それを作者の筆力が最後のページまで一気に読み進ませてくれます。
物語の中には、最初に勤めていた出版社の女性の同僚たちの悪意ある無関心、高校の唯一の女友達との同窓会での再会、アルバイトを紹介してくれた編集プロダクションの女性、フリーになるきっかけをくれ長い友だちづきあいとなった大手出版社校閲局の女性など、さまざまな個性と現状を抱えた女性たちと冬子とのやりとりが描かれます。
ここのところは女性の読者のなかには「ああ、あるある」とうなずきながら読む人もいるのではないかと思いました。
作中で冬子は、友人となる校閲局の女性と高校3年の時の初体験の男子から「あんたをみているとイライラする」という言葉を投げつけられます。
読んでいてイライラする主人公なのか、はたまた自分と同じ部分を冬子のなかに見つけてため息をつくのか。他の女友達に読んでもらって感想を聞きたくなった小説でした。
個人的には純度の高い恋愛小説でした。言葉数の少ない主人公の内面の描写力に感嘆です。帯の評にあるようにまさに「言葉の芸術」ですね。
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