2015年7月26日日曜日

1146 本屋で探検36〜「猫又お双と消えた令嬢」(周木律:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第36回目。
今回は、周木律・著「猫又お双と消えた令嬢」です。

本書はいわゆる謎解きものです。そのトリックはそれほど特異、奇抜なものではなく、むしろオーソドックスというかシンプルなものです。密室ものですが殺人事件は起きません。
それでもぐっと引き込まれたのは、メインの登場人物のひとり(1匹?)、猫又のお双(そう)ちゃんのかわいさでしょうか。この子なくして物語は成立しないんじゃないかというくらい、かわいい、愛らしいのです。もちろん彼女も活躍し、事件は解明されます。


いやいや、この物語の醍醐味は、密室から忽然と令嬢が消えた事件の謎を一つずつ種明かしをしていくこと、その過程で屋敷の住人の事情が明らかにされていくこと。これらが読み応え十分な内容でした。

物語は、帝都・大東区(誤変換ではありません)、5年前に大空襲でも焼け残った六畳一間の古長屋(お双ちゃんの証言では築100年!)の一室。そこに住む帝都大学大学院で物理学を学ぶ葛切隆一郎(くずきりりゅういちろう)は、仙台の商家の一人息子で親が跡取りにと期待するなか、親の干渉から逃れ勉学を続けるために上京します。

古長屋暮らしを始めて1ヶ月後、隆一郎は小さな裏庭にやってくる白灰黒のサバトラ猫と仲良くなります。その猫の長いしっぽが2つに分かれていることに気づいたとき、猫が「見たの?」と人間の言葉をしゃべったことに驚きつつも冷静に状況を分析する隆一郎。
その猫又から名付け親になって欲しいと頼まれ、二股に分かれているしっぽから「お双」と名付けます。お双は人語を話すだけでなく15〜16歳の少女にも変身できる様を見せつけ、それ以来、少女の姿で隆一郎の長屋に居座ります。
身体の模様と同じ、白と灰と黒の三色模様の袖なしワンピース。肩口までの黒髪はつややかに輝き、毛先はピンと外側に跳ねている。
(ワンピースの裾からのぞく)まるで白い大福餅のような丸い膝頭。
肩口までの黒髪に、苺のような形の顔。その真ん中には大きなくりくりとしたまなこが二つ。ちょっとだけ上を向いた小さな鼻のすぐ下には、愛嬌のある口。

そんな少女の姿で甘える様は、まさに猫が人間になったらこう来るだろうなぁと想像に難くないです。読んでいてでろでろになりそうでした。

さて、そんなふたりが大家である千牧近衛(ちまきこのえ)から夕食会に呼ばれ、その席で千牧氏の知り合いである旧華族・長命寺家へ令嬢の誘拐を阻止するために一緒に赴いて欲しいと頼まれます。
なんとお双ちゃんも一緒にという千牧氏に慌てる隆一郎ですが、千牧氏の披露したトランプ手品に聡明に対応した二人を見込んでとのこと。このトランプ手品に対する隆一郎の推論と千牧氏の種明かしが基礎問題となるような布石になっています。後に起こる誘拐事件が応用問題となるわけです。

魔術師と名乗る男から複数にわたり謎めいた手紙が長命寺家の屋敷内に忽然と現れ、最後の手紙では長女・桜を人体消失魔法によりもらいうけるという予告状となっていました。その犯行予告日、長命寺家の大きな屋敷に集う千牧氏、隆一郎とお双ちゃん、長命寺家当主・是清、書生の柏良平、長女・桜、長男・竹蔵、次女・梅、住み込みの女中・萩かの子。
元はホテルだったという2階建ての洋館は堅牢で、2階の13室もある部屋は外からはもちろん中からも鍵がないと開けられないようになっています。しかもオートロック。

窓も玄関もすべて施錠された密室状態の屋敷にも関わらず、魔術師の予告どおりに桜が消えてしまいます。
学生であるとはいえ科学者である隆一郎は理論的に謎解きをし、事件を解明します。ここがこの小説の醍醐味なんですが、ネタバレになるので詳細は省略させていただきます。

物語の大半が事件が起こる日の午後から事件発生の午前零時を過ぎ、翌朝午前4時までの時間軸に沿って語られていきます。
ここに出てくるトリックはそれほど複雑怪奇なものではありませんが、何かに注意を向けさせている間にマジシャンが手品の種を仕込む、それを見ている側が種を解き明かすという過程に注力されていると思います。

お双ちゃんも魅力的ですが、隆一郎の誰に対しても「ですます体」で話す口調がグッときますし、他のキャラも個性的なうえ、隆一郎のトリックの解説に引き込まれ、思わず一気読みしてしまうストーリー展開でした。

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