2015年7月30日木曜日

1148 本屋で探検38〜「神楽坂謎ばなし」(愛川晶:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第38回目。
今回は、愛川晶・著「神楽坂謎ばなし」です。

物語は、中堅老舗出版社に勤める武上希美子が倒れた部長の代打で人気落語家・寿々目家竹馬のエッセイ本の編集を任されたことを発端に、彼女が公私ともに思いもよらぬ方向へ人生が進んでいきます。

竹馬師匠の原稿にあった落語独特の言い回しに気づかずに校正をかけてしまい、師匠本人もいい加減なところもあったという二重のミスでそのまま出版されるという直前に、竹馬師匠から出版差し止めの要請が入ります。いくら希美子が謝っても、とりあえず初版には正誤表を入れるという対応を提案しても頑として譲らない竹馬師匠。

そんなとき、希美子が三歳の頃、両親が離婚した後に生き別れていた父が死にそうだという連絡が入り、会わなかった年月の長さを気にしつつも病院に行くと、なんとそこに先の竹馬師匠が。
さらに父からは「自分が回復するまで「神楽坂倶楽部」という寄席の代表をしてほしい」と頼まれます。希美子は余りに幼くして父のもとを離れたため、寄席を経営していたことを覚えていませんでした。
落語は全く素人である女子は固辞しますが、竹馬師匠が自分の本はそのまま出版OKにするという条件を出し、勝手に出版社の社長と直談判。社長もこれ幸いと有給で「神楽坂倶楽部」へ事実上の出向を命じてしまいます。

当方も落語は全くといっていいほどわかりません。子供の頃、親が観ていた「笑点」をぼんやりみていたくらいです。生で聴くこともありませんでした。
ちょうどこの主人公のように落語は素人なわけです。そんな落語を知らない読者にも入っていきやすい作りになっています。希美子と同様に一から学んでいく感じでした。

寄席の楽屋の様子や、小咄もひとつ、ふたつ差し込まれています。始めにオチを伝えてしまう「死ぬなら今」という噺は興味深かったです。しかも死期が近いことを自他共に分かっている落語家がをれを演目にするということや、そこに至る経緯の深さに感嘆しました。
個人的にここはこの本の一番の読み所だと思います。

物語は彼女がひょんなことから落語会という未知の世界に入るはめになり、そこで悪戦苦闘しながらも長いこと疎遠だった父の寄席を守る奮闘記・・・と思っていたのですが、続編「高座の上の密室」ではミステリー仕立てになっている模様です。
そういえば本書にも彼女の幼いころの不思議な記憶がちらりと書かれていたり、寄席の裏の民家に住む女性との関わり、両親の離婚の本当の理由など、謎がところどころにちりばめられています。

落語入門ではないにしても彼女と一緒に落語のいろはを学ぶ感じになれます。巻末の柳家小さん師匠の解説を先に読んでから物語に入ると、寄席についてよりわかりやすくなると思います。

ちょっと生で落語を聴いてみたい気分になりました。


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