2015年7月27日月曜日

1147 本屋で探検37 〜「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(谷原誠:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第37回目。
今回は、谷原誠・著「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」です。小説ではなく実用書です。

「交渉に勝ち負けはない」

これは目からウロコでした。
”交渉する=自分の要求を主張する→主張が通ったら勝ち、ダメなら負け”
”交渉する→決裂する→裁判になる→和解もあるがだいたい勝ち負け→つまり交渉は勝ち負け”

こんな図式が頭のなかにありましたので、この本にあった「交渉に勝ち負けはない」は本当に衝撃的でした。

事例として、車のセールスマンが「200万円で売ったら勝ち」「〜なら負け」という基準でお客さんに売ったところで次に続かない。別のセールスマンは予算がないというお客さんに180万円で売った。上司に怒られながらもオプションを付けた結果、お客さんがお客さんを呼び、さらに買い換えの時も指名してもらえて、先の勝ち負け判断のセールスマンより売り上げを伸ばした。後者は勝ち負けではなく、お客さんの満足度が上がるような交渉をした結果だといいます。

続けて著者は、「Win-Winの関係」も否定します。交渉というのはどちらも勝つようにという考えではなく、自分に最大限の利益が得られるよう努力するものであるからなのだそう。だから、交渉を通して相手の出方、腹づもりを読み、落としどころを探りつつ、自分の利益がそのなかで最大になるようにもっていくことなのだと。

これなら気の弱い人でもできるでしょうと著者は言いますが、気が弱くない人もこの考えでいけば角を立てずに交渉がうまくいくのではないでしょうか。

著者は「Yes,but〜」もNGだと言います。交渉相手は「Yes」で自分の言ったことを肯定されたといい気持ちでいるところを即刻「but」で否定されることになります。

「200万円です」
「高いですね」
「はい。でも、理由があるんです」

こういうやり方はNGだと説きます。むしろ「そうなんです。高いんです」と肯定してしまいましょうと言い切ります。そんなことをしたら交渉終了ではないかと思うのですが、ここが言い回しの妙、「そうなんです。高いのには訳があるんです。というのはですねーーー」と、実際は「Yes,but〜」と意味は同じなんですが、否定が入っていない分、相手にこちらの言い分を聞いてもらえ、うまくすると受け入れてもらえるかもしれないというわけなんですね。

「交渉に勝ち負けはない」の他に、もうひとつ大事なポイントがありました。

「相手より先に譲歩してもそれは負けではない」

互いに譲歩しなかったせいで裁判になり、結局膨大な時間と労力、訴訟費用を要しながら、大企業だった相手方の資金力にモノを言わせた弁明により、裁判前の交渉段階で提示された額に遥かに及ばない雀の涙程度の金額しか得られなかったという事例もあるそうです。

本文中の例文どおりに交渉の会話が進むとは限りませんが、気の弱い人が自信をもって交渉に挑めるようなヒントが数多く掲載されています。

後述になりましたが、著者の谷原誠氏は弁護士さん。小さいころはいじめっ子のターゲットにされたり家に帰れば兄にいじめられ、口べたで反論できないため口喧嘩が弱いまま育ち、大学生時代はキャッチセールスに捕まって高額品を買わされかけたりと、今の弁護士という職業から想像もできないくらい口べた、交渉ベタだったそうです。

それじゃまずいということで交渉の仕方を研究し、弁護士になった後も交渉術のスキルを磨いて行きます。そのなかで時に失敗しつつ得たのが「交渉は勝ち負けではない」「Win-WinもYes,butもNG」などの交渉の基本姿勢と自分に合った具体的なスキル。

当方、この本を読んですぐに交渉する場面に遭遇し、やや付け焼き刃的ではありましたが、「相手の話を先に聞く」「勝ち負けという意識を捨てる」などを試してみた結果、以前より心理的負担は減り、言いたいことを少しはうまく伝えることができました。
勝ち負けという意識を捨て、これ以上は譲れないという地点を決めた上で最大限の利益が得られるよう交渉するということができたと思います。

著者がハーバード流などいろいろ試行錯誤しつつ自分にあった交渉術を会得していったと序章に書いてあるように、この本のやり方を試してみるのも無駄ではないと思います。交渉下手と自覚している人には強くオススメします。

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