2014年11月29日土曜日

0981 本屋で探検3〜「美女と竹林」(森見登美彦:著)



「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第2回目の本は、森見登美彦・著「美女と竹林」です。

正確に言うと、この作家は「お初」ではないのです。でも、文字になったのを読むのは初めてというおかしな状態なのは、アニメ「有頂天家族」から入ったからでした。
ですので、ちゃんと「正面玄関」から入るべく、「有頂天家族」の原作ではなくあえて別の作品を探して、書店で平積みになっている中から「美女と竹林」を選びました。

まずは文庫本カバーの後ろにあるあらすじを読みます。
「これからは竹林の時代であるな!」閃いた登美彦氏は、京都の西、桂へと向かった。(中略)はてしなく拡がる妄想を、著者独特の文体で綴った1冊。

さて、これは小説なのか、エッセイなのか?
あとがきもなく、月刊誌「小説宝石」の2007年から2008年にかけて連載されたものとしかわかりません。
そこで、本文の1ページ目を立ち読みしてみました。

森見登美彦氏とは、いったい何者か。この広い世の中、知らない人の方が多いに決まっている。したがって、筆者はまず彼を紹介することから始め、遺憾なことに、「見たところで、あんまりトクにはならんよ!」とも言わねばならない。森見登美彦氏は、今を去ること三年前、大学院在学中に一篇のヘンテコ小説を書いて、ぬけぬけと出版界にもぐりこんだ人物である。(以下略)

なにやら自分を主人公にしているようです。「森見登美彦」という同姓同名の架空の人物だったとしても、このようにへなちょこな人物として書けるというプロ作家としての根性に惚れました。

さて、読み進めていくうちに、これはどうも純然たる小説ではないということがわかりました。しかしエッセイというにもフィクションというか妄想が含まれております。
しかも筋が無く、時間の経過とともに言葉は悪いですがだらだらと流れていきます。

もう何度読むのをやめようと思ったか。それでも最後まで読んでしまったのは、この作家の独特の文体のせいだと思います。
なんでもない情景を描写する筆力。これに尽きるのではないかと。

例えば、編集者の人たちと竹林に竹を切りに行くはずが雨に降られ、喫茶店に入った時の話が出てきます。そこで登美彦氏が文庫本2ページ分にわたって竹博士の話をしたり、3ページにわたって三千院のわらべ地蔵を見に行った話をしているのですが、これらもついつい読んでしまいました。

その文章に続くのが、
しばし沈黙がおりた。登美彦氏がぼんやりと「そもそも、なんの話でしたっけ」と言った。「わからなくなりましたねぇ」大口氏が言った。
なんだかこの文章に集約されるような本書でした。(注:大口氏とは編集者の人です。)

それで、この作家を初めて読む方には「美女と竹林」より「有頂天家族」とそのアニメをオススメします。
後に「有頂天家族」の原作も読みましたが、アニメは森見ワールドを見事に映像化していると思いました。余談ですが、弁天役の能登麻美子さんの声が良いです。

そういえば、学校の先生だったか、著名人の言葉だったか忘れたのですが、「うまい作家というのは、読者に次のページをめくらせて最後まで読ませることのできる奴だ」というようなことを言っていたのですが、まさにこの作家はそれだと思いました。



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