まず、文庫のシリーズ名と出版社が気になりました。「すこし不思議文庫」「主婦の友社」。
個人的には「あまり文庫で小説を出す出版社っぽくないなぁ」という印象でした。それで「すこし不思議文庫」というのがどういう趣旨で創刊されたのかネットで調べてみたのですが、出版元と公式サイトっぽいところにも何も記述がみつかりませんでした。
というわけで、すこし気になりつつも、現在(2015年4月)6冊が刊行されている小説の中味そのものから気になったものを1冊チョイスしてみました。もちろん6冊とも読んだことのない作家さんばかりでした。
物語は、高校2年生・賢介が主人公。生まれた直後に母親を亡くし、美術大学の教授の父と二人暮らし。時々、ハウスキーパーが来るという家庭環境です。
父とはうまく意思の疎通が取れない。嫌われているのか?憎まれているのか?
小学生の時に「父親がいなくなれば」と殺意がわいたが、その時の父の反応に自分の葛藤が伝わらなくて脱力、現在に至る。そんなときクラスメートの陽一と親しくなり、今までだれにも話したことのない思いを打ち明け、何かが変わっていき・・・。
父のハウスキーパーとの再婚話、認知症になりかけた母方の祖母がふとつぶやいた母の絵の存在を知り、探しに行く決心をする賢介。
ところがその町で泥棒に遭い、借りた自転車で追いかけたらブレーキが壊れて坂から崖下へ転落。気がつくとほぼ無傷でどこかに着地していた。
その直後におぼれかけている女の子を助けて、その縁で喫茶店に居候させてもらうことに。そこを任されていたのはなんと若かりし頃の自分の母親だった。
ストーリーはいわゆるタイムトラベルものです。これが「すこし不思議文庫」の趣旨なのでしょう。むかし風な言い回しをするならば「ファンタジーSF」といったところでしょうか。
先日紹介した「たんぽぽ娘」に通じる、ほんわかとしたあたたかさを感じる物語でした。
読みどころはやはり若き日のお母さんとの交流です。賢介は歴史をねじ曲げても母親を死なせまいと、自分が来た「未来」に連れて帰ろうとします。
だが、事情を知らない母親は強く拒絶、その時賢介は、生まれた自分の顔を見ずして死んだ母親がいかにお腹の中にいる賢介を愛おしんでいたか、息子を厭わしく思っていたはずの父親も賢介が生まれることを望んでいたことを知ります。
当方、うかつにもここで涙目になりました。
タイムトラベルにつきものの矛盾はありますが、そこはあのハインラインも「夏への扉」で苦しい言い訳を主人公にさせていたと記憶してます。ここは大目に見て、夏の日の青春物語を楽しんでください。
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