2015年4月14日火曜日

1066 本屋で探検25〜「イノセントブルー」(神永学:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第25回目。
今回は、神永学・著「イノセントブルー」です。

神永氏といえば、当方も「心霊探偵八雲」などは(どちらかというとドラマCDで)知っているシリーズですが、これまで読む機会がありませんでした。
ジュンク堂さんの文庫コーナーを巡回していると、その他のタイトルもあちこちで目にしました。
それでは、ということで著名シリーズ以外から読んでみようと思い立ちました。当方、割と天の邪鬼であります。


物語は、海岸沿いの町にあるペンションが主な舞台。経営しているのはある医療事故がきっかけで医者を辞めた森川という男。
ある日、大きな黒い犬に呼ばれ海辺で助けた若い男・才谷梅太郎をペンションに宿泊させたところから、曰く因縁がありそうな男女が才谷に引き寄せられるようにして集まります。

この「人を探している」という才谷という男は正体不明どころか、他人に前世を見せられる(しかも才谷もそれを共有できる)という。森川には半ば強引に見せられ、ペンションのアルバイト・陽子は興味本位で「見てみたい」と受け入れます。

そこに事業に失敗し死のうと思ってやってきた四十過ぎの男・有田、前世で恋人だったと突然執拗に迫る大学生・悠人、見も知らぬ悠人からストーカーまがいの行為を受けたピアニストの千里、森川の元上司で、偶然悠人から車を奪われた医師の汐見。
彼らは前世で時代と場所を変えてそれぞれが繋がっていました。そしてすべてのキャストが揃ったペンションで事件が起こります。

読んでいて、作者はこの前世のエピソードをうまく作り込んでいるなぁと感じました。前世で果たせなかったこと、なかにはそれらを幾たびかの前世で繰り返している登場人物も。
前世という形を取っていますが、これは現世を生きる森川たちに過去に囚われることなく生きること、やりたかったことをやりとげること、今を生きるということを伝えるための手段だと思いました。

実際、作者は「前世の記憶をめぐる物語を描きたかったというよりは、今を生きる人たちの物語を書きたかったのだと思います」と書いています。
ああ、なるほどなぁと思いました。

なかでも一番印象に残った前世のエピソードは、21歳の陽子のものでした。
彼女の前世は遊女。格子の嵌まった窓から見える空を眺めながら「飛びたいねぇ」とつぶやく。やがて病で余命幾ばくもなくなってから窓格子のない部屋(診療所)で死を待ちつつ、「生まれ変わったら流されずに、自分の思うまんまに自由に飛んでみることにする」と決意します。
前世の記憶から戻った陽子が今現在の過去を振り返り、自由になったにもかかわらずやりたいことをやる前から諦めていた今の自分に気づきます。

たとえ、身体が自由になれなくても、心の中は、自由でいられたはずだ。それなのに、環境に流されるままに生き、未来に希望を見いだすことを止めてしまった。
それが間違いだと気づいたのは、自らの死を悟ってからだった。だから誓ったのだ。生まれ変わったら、自由に飛ぼうと・・・。
それなのに、現在の自分は忘れてしまっていた。
また、流されるままに生きて、ただ時間を浪費していた。前世と変わらず、できないと諦め、誰かが籠から出してくれるのを待っていた。
自分で飛び出さなければ、何も変わらないのに・・・。
(中略)
周囲から浮くことを躊躇い、結局自分のやりたいことに蓋をしていた。
失敗を恐れ、自分の心に嘘をついてきた。だから、居場所が見つからなかったのだ。

個人的には陽子のエピソードが一番グッときたシーンでありまして、作者の書きたかった「今を生きる」が一番ストレートに現れている部分なんじゃないかなぁと思いました。

それにしても、結局才谷は誰を探していたのでしょうか?彼は現世でどんな生活をしていた人で、ペンションを去りどこに行ったのか。
「大丈夫。きっと、また会えます。魂は、引き合いますから」
そんな言葉を残して去って行った才谷ですが、彼のその後のエピソードがあったとしても読むのは何だか無粋な気がします。

「自分は何をしたかったんだろう?」と悩んでいる人に特にオススメです。前に進む元気を少し、もらえると思います。

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