2015年4月9日木曜日

1061 本屋で探検24〜「しずく」(西加奈子:著)

「不定期に本屋さんに行き、知らない作家の本を少なくとも1冊は買う」というルールに則って紹介する第24回目。
今回は、西加奈子・著「しずく」です。

6編からなる短編集です。初出は2006年に小説宝石に掲載後、2007年に単行本化、2010年に文庫化され、2015年2月に6刷となっています。

作者は2015年に直木賞を受賞されています。そのせいか書店の文庫コーナーのあちこちに(出版社が違うせいですね)「祝・直木賞受賞」と書かれた帯の著作が平積みされていました。

この作者を初めて読む方にはそれが直木賞受賞作品に見えてしまうと思うのですが、受賞作というのはまずだいたい単行本で出版されますので、文庫コーナーにはないのでした。
ちなみに受賞作は「サラバ!」です。


「では、文庫でどれを最初に読もうかしら?」と考えて文庫コーナーをさまよい(注1)、「しずく」に決めました。
はい、もちろん表紙買い。猫絵の素描が決め手です。こういう直感も捨てたものではないですし、実際読了してそれが当たっていたなぁと思いました。
それと、表題作をチラ読みしてうるうる来て「ヤバイ!」と思い、慌てて本を閉じてカゴに入れた(注2)というのもありますが。

注1:先入観なく直感で選ぶことを旨としているので、何がベストセラーになったという情報は事前に入手しないことにしています。
注2:だいたい1度に6〜7冊購入するため、ジュンク堂さん備え付けのカゴを持って文庫コーナーを巡回します。

最初にも触れましたが、本作には6本の短編が収録されています。「ランドセル」「灰皿」「木蓮」「影」「しずく」「シャワーキャップ」。このうち「しずく」が単行本刊行時の書き下ろしとなっています。

いずれも女性ふたりが物語の中心となって話が進みます。小学校時代からの幼なじみ、大家さんの年配女性と店子の若い小説家、30代女性とバツイチ彼氏の7歳の娘、ちょっとぼやーんとした母親と几帳面な娘、などなど。
作者の文庫あとがきを読みますと、すべての物語の核にあるのが「ふたりの女の友情」なのだそうです。なるほど納得。母娘も「友だち親子」という感じな人たちも見受けますし、「しずく」の主人公は・・・え?猫?

当方がグッときたのは次の3つです。

「ランドセル」
みっちゃんとくみちゃんは小学校時代からの幼なじみ。高校を卒業したあとは音信不通だったのに30代になって偶然再会、そのノリでロスへと旅行することに。そこでなぜか遭遇したピンクのランドセルから小学校低学年時代のことをふたりで思い出し・・・。
関西弁だとなんだかとてもタフで、向かうところ敵なしという感じで海外旅行をしているように見え、冒頭から爽快感満載のスタートでした。

「木蓮」
物語の出だしは、外出から帰った女性が自転車のカゴからラナンキュラスの鉢を持ち上げ、ポストから手紙を取り出し、部屋に入るとベランダからの日差しに目を細める。恋人からもらったスコーンを温め、コーヒーを淹れ、レコードに針を落として優雅な日曜を迎え・・・たはずが口癖となっているらしい悪態をひとつ付くと、そこで場の雰囲気ががらりと変わります。これは見事。
主人公は34歳。これを逃せば次は無いとばかり、新しい恋人(40代、バツイチ、元妻に親権のある7歳の娘あり)のライフスタイルに必死にあわせようと奮闘します。当然、娘にも本性を隠してご機嫌を取るのですが、この小憎らしい娘にとうとうブチ切れ・・・。最後はこの娘と年の差こそあれ「女ふたりの友情」が芽生えるような予感で終わっています。

「しずく」
主人公の女ふたりは雌猫。売れない男性作家が飼っている6歳とちょっとのフクさんと、売れない女性イラストレーターが飼っている7歳ちょっと前のサチさん。このふたり、もとい2匹の猫の視点と会話で進行します。それがまさに猫あるあるで、この作家さんは猫だったんじゃないかというくらい猫の特性が表れた描写に笑みが漏れてしまいました。最後はホロリです。猫好きに強くオススメ!

読み終えて思ったのは、女性読者ならばいずれかの物語のどこかに身に覚えのあるようなエピソードが見つかるのではないかということでした。
加えて、痛快というか爽快感が後口に残る感じで、この作家さんの文章は小気味よいなぁと思いました。さくっ、すぱっ、という感じでしょうか。

それと、登場人物の女性達が皆、意外と強いのです。相手に合わせて自分を無理矢理別の枠にはめ込んでみたり、「職場で働く私」というイメージを自ら作り上げて演じてみせたりしているのですが、やがて「やめやめ!」と素の自分に戻っていく。
なんか気分がもやもやしていてスカッとしたい女子に特にオススメです。

余談ですが、「しずく」を読んで、猫の世話が人間本位の身勝手なものになってないかどうか反省した次第です。特に何か作業に集中している時に猫に邪魔されイラッとする場面とか(滝汗)。すまぬ。



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